ここ10年は改善傾向
富山の酸性雨 (第14回)



  
   
  
   
 富山の酸性雨の特徴について紹介したい。富山に降る雨や雪にどんな成分が溶けているのか、どのくらいの量が雨や雪と共に降ってくるのかということに以前から関心があり、時々雨や雪の成分を調べていたが、酸性雨の観測で行われている方法を使って雨や雪の組成を通年で調べ始めたのは1988年からである。

 1988年は富山市における非海塩性硫酸イオン(酸性雨の原因成分の一つ)の沈着量が年間値で1m2あたり7g台もあり、その年の国内の観測点の中で最高値ではなかったかと思われる値を記録し、初めて出席した学会でもそのことが報告され、科学文化センターの値も同程度であったことが印象に残っている。その後2年間は酸性雨が連続して強まり、また、国内各地の酸性雨の強まりや被害、冬季の中国大陸からの酸性物質輸送など様々な報道もあって、日本の酸性雨はたいへんな状況になりつつあると広く思われた時期であった。

 しかしその後、科学文化センター屋上で調べる酸性雨は弱まる傾向にあり、酸性雨ダイアルの番組作りの資料として県内の各観測点の値を調べてみると、1990-92年を境に酸性雨が弱まる傾向が同様に見られた。

 富山の酸性雨が最も強かったのは昭和40年代後半の頃ではないかと考えている。当時は富山も含めて日本の公害問題が最も深刻な時期で、川の水も空気も現在と比べてかなり汚れていた。このあと公害対策関係の法令が整備され、様々なところで環境をきれいにする取り組みが始まり、数値の上でも水や空気がきれいになり始めたのである。

 40年代の雨や雪のpH、組成に関するデータが全くなく、推測の域を出ない部分でないが、富山の場合「気がついたら酸性雨だった。けれども改善されつつある」というのが実際の所だろう。今後の富山の酸性雨は、気象的な要因で多少強まる年もあるかも知れないが、傾向としては現状維持か改善方向に向かうのではないかと楽観的に考えている。(朴木英治,2000.4.20掲載)




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