特有の南風が防波堤
北からの酸性物質 (第15回)



  
   
   煙突の煙も南よりの風で富山湾上に追いやられる
   
 1988年から開始した酸性雨研究の最初の年にわかったことがある。富山では、海を起源とする海塩の輸送は冬季、もっと厳密に言えば、北西季節風が吹く冬型気圧配置時の降水によって日本海から殆どが輸送されるるという事であった。中国大陸由来の酸性物質の輸送も冬型の気圧配置時に起こり、日本海から供給される塩分と中国大陸由来の酸性物質は、全く同一の経路をたどって富山に運ばれてくることになる。

 新しい分析機の入手を機に1995年から雪雲の移動経路に沿って新雪を集め、沈着する物質量の変化を調べてみると、予想どおり雪雲は石川県の海岸線から上陸後、雪や雨を降らせながら海塩や酸性物質を減らし、富山県に進んでいることがわかってきた。

 富山市における海塩量は季節風の風上50kmに位置する石川県羽咋市の1/4程度しかなく、中国大陸由来の酸性物質量も同程度に減少していることが推定され、この値と実際の酸性物質の沈着量を比較することで富山市では沈着する酸性物質の50〜90lは地元由来と推定された。

 さらに、その原因は海沿いにある大きな工場や火力発電所よりも、むしろ、自動車や街の中の小さな事業所由来ではないかと推定できた。というのは、特殊な地形の富山では、上空で北西季節風が吹く際も地上風は南よりとなり、富山湾から陸上への海塩輸送(主に風送塩)を阻むばかりか、海岸部に立地する工場や火力発電所から排出される大量の酸性物質を富山湾上に追いやるという効果も見えてきた(ただ、気象条件によっては、これらの施設の排煙が内陸部に向かうので影響度は全く0ではない)。

まさに富山の自然の采配の妙が富山の自然を守っているのである。 (朴木英治,2000.4.21掲載)




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