西側斜面だけ酸性化
呉羽丘陵の水 (第16回)



  
   
   呉羽丘陵西側斜面。沢の水はなぜか酸性化している
   
呉羽丘陵一帯に、丘陵を源流とする小さな沢がたくさんある。開館まもなくの頃(1980年頃)、この丘陵西斜面の沢で動物担当の南部がホクリクサンショウウオを発見し、このサンショウウオの生育環境調査に同行したのが私の初めての水質調査であった。

それまで水質分析の経験が全くなかったため、分析値が何を意味しているのか見当もつかない状態であった。例えば、通常の河川や地下水のほとんどはpH6〜8の範囲にあるが、この時のサンショウウオの産卵場所の水のpHは4.6〜4.8程度で、これは何かの原因で水が酸性化した水なのだか、その当時はこんな事すらわからなかった。しかし、この調査の際に、雨や雪の水質と沢水の水質との関係はどうなっているのだろうと漠然と考えたのが、その後の私の研究、特に、酸性雨の研究に至ったきっかけのような気がする。

1991〜94年にかけて行った館の共同研究の中で改めて丘陵の水質を調べる機会を得、丘陵全体の沢の水質調査を行ったが、丘陵の西斜面と東斜面では水質が全く異なることや西斜面一帯ではpHが低いことなどがわかってきた。さらに、1996〜97年に行ったファミリーパーク園内での湧水の調査で始めて降水の組成と渓流水の組成との対比を行ったが、丘陵西斜面のpHの低い水の成因について考えるには、土壌の性質や降雨の沢への流出機構など、水質以外の事も調べないと現象の説明ができないことを痛感した。

そんな時、渓流水の酸性化の研究をしている県立大学短期大学部の川上先生と知り合い共同で調査を行うことにした。その結果、丘陵西斜面の水質の特徴が、酸性雨などによって森林が枯れている水域に見られる特徴と似ているが、呉羽丘陵では木が枯れる兆候は今のところ見られない点で大きく異なっていることがわかってきた。

 水質研究で初めて出会った水は、実はとんでもなく変な水で、現在の研究のきっかけともなり、解明のための挑戦をするたびに新しい発見ができる不思議な水でもある。(朴木英治,2000/4/22掲載)




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