片時もカメラ離さず
雲の撮影 (第20回)



  
   
   撮影した積乱雲。雲は刻々と形を変える
   
 十数年前のある日、青く晴れた空、何気なく見上げると、「らせん状の白い雲」が浮かんでいた。なんであんな形になるのだろう?それよりきっと今まで誰も見つけたことのない雲に違いない。急いでカメラを向けた。現像したフィルムには左の片隅にちょこんと写っているだけ、しまりのないものになっていた。これが雲とのつきあいの始まりである。

 さっそく雲の図鑑を買い、それをしげしげと見て、ようしここに載っているものは全部撮影してやると意気込んだものである。  ある時期は飛行機雲に、そしてある時期は雲海、またある時期は雷と撮影したい対象をある程度しぼって長い間続けてきた。

 中でも雷は撮影の難しいものだった。ゴロゴロゴロ、ピカッ、やってくるのはすぐわかるが、どこで光るのかがわからない。広角レンズで待てば写りやすいが迫力がなく、口径を大きくするとファインダーの中からはずれた所で光るというやっかいもので、フィルム一本をむだにしたこともたびたびだった。

 雲は多くの場合変化が激しく、今あるものがすぐに形を変え、あるいは消えてしまうということがよくある。雲を撮影するにはいつも空を見ていること、いつもカメラを持っていることが大事だ。そして、いつも空を見上げていると自然はまるでその人の気持ちを受け入れたかのように、ときとして美しい場面、珍しい現象を見せてくれる。

 いままで撮影した雲の写真は理工展示室の一角を飾ったり、館蔵品展、ロビー展示などの展示、そして気象教室でも活躍している。教室で雲の話をするとき、実際外に出て観察しても見えてほしい雲に出会うことはなかなかない。どうしても写真資料に頼らなけねばならないわけである。

 ちなみに、私を雲の世界に連れていったあの「らせん状の雲」の正体はいまだにわかっていない。(吉村博儀,2000.5.2掲載) 




 この文章の著作権は北日本新聞社にあります。富山市科学文化センターは使用権を取得し、ここに掲載しております。無断転載を禁止します。