ヤナギの花粉を運ぶのは?
花と昆虫 (第50回)



  
   
   ヤナギの花に止まるヒメハナバチの仲間
   
 花とチョウは、花みつ・花粉の提供、花粉の媒介という「共生関係」の代表的な様子を表すものとして取り上げられる。

 「共生」つまり持ちつ持たれつの関係は自然界の基本的な関係であって、博物館の展示などの中心的テーマだ。確かに花に来る昆虫としてチョウは良く目立ちアピールするものがある。しかし、よく観察すると、チョウはむしろ花にとって厄介ものではないかと思われる場面に出くわす。花に来て花みつを吸っていくが、花粉が体に付着しないのだ。その場合、花にとってチョウは花みつを吸われるだけで迷惑千万である。

 例えば、ヤナギの花である。早春河原に咲くヤナギの花には、越冬から目覚めたキタテハなどのチョウがよくやって来るが、ヤナギの花は小さいのでチョウの体に花粉は付かないことが多い。ではいったい何者がヤナギの花粉媒介を行っているのだろうか。ヤナギの開花時期は年によって変化があり、開花期間も短いので三月中旬ごろから、年によっては三月初めころから四月初めまで常にのぞきに行かねば開花最盛期に出会えない。雨や曇りでも花に昆虫はやってこない。うまく開花と晴天が合うと、小さなハチやハエがたくさんきた。しかし、種類によって体への花粉の付き方や活動性が違う。どんな種類が花粉をたくさん付けるのか、たくさんの花を訪れるのは何か、ヤナギの花とにらめっこをした。

 特に小さな黒いヒメハナバチの仲間が多くやって来て、後ろ足に黄色い花粉をたくさん付けていた。ヤナギの花に比べ相対的に体が小さく、雄しべや雌しべに体をすり付けるようにしながら花みつを吸っていく。ハナバチの仲間はミツバチ同様、花みつと花粉を集めて自らと幼虫の餌としているのだ。ヤナギの花の花粉媒介はヒメハナバチ類が担っているということが分かったが、ほかの花はどうだろうか。目立たぬものが重要な働きをすることも多いのだ。(根来尚 2000年6月17日掲載)




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