3年がかりでデータ集め
高山のハチ (第51回)



  
   
   ヒメマルハナバチは多くの花を訪れる
   
 夏の高山は、とりどりの花に心が晴々となる。花に顔を近づけていると、大きな羽音をさせて淡黄色の毛むくじゃらのハチが飛んでくる。花に止まり、大急ぎで花みつを吸い、花粉を集め別な花に飛んで行く。

 このハチは、マルハナバチの仲間である。地球の温暖化が大きな問題となっているが、温暖化で最も危ぐされるのが高山の生き物だ。急ぎ高山の生き物の様子を知る必要がある。高山のお花畑での花粉媒介の多くがマルハナバチによるものだと気づき、このハチを調べることにした。

 しかし、立山など国立公園の特別保護地区内では花に来るハチをどんどん採集して種類を調べるわけにはいかない。まず、採取せずハチを見分けなければならない。花の上で忙しく動き回るハチを雄か雌か、働き蜂か女王蜂かも含めて見分けるのはだいぶ熟練がいる。

 環境庁などにお願いをしてようやく十匹程度の採集許可をもらい、立山のあちこちのお花畑で一シーズンも観察すると、ヒメマルハナバチ、オオマルハナバチ、ナガマルハナバチの三種がいることが分かった。採集しなくても見分けられるようになった。ようやく本番の調査の始まりだ。調査場所を決め、六月の開花から九月の花の終わりまで、毎月二、三回、立山に登り、どのハチがどの花にやってきたかを記録する。これを三年間続け、約千例のデータが集まった。

 長い顔、長い舌のナガマルハナバチは、トリカブトとミソガワソウに来て潜り込むが、他の花には来なかった。最も多いのが小型で少し長い舌のヒメマルハナバチだ。タテヤマアザミ、アオノツガザクラ、クロマメノキ、ミヤマリンドウなど多くの花に来た。顔も舌も短いオオマルハナバチが来る花は、ヒメマルハナバチに似ているが、ハクサンボウフウなどにも来てクロマメノキなどには来なかった。小さな事柄でも充分に観察を重ねることで見えてくるものが重要である。(根来尚 2000年6月19日掲載)




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