生活の変化の歴史示す
ハチの形 (第53回)



  
   
   巣作りのため木をかじるセグロアシナガバチ
   
 博物館の展示は、個々の事柄を示すとともに、それらを関連付けて示されなければならない。個々の事象とともに、それを結びつける関係について広く学び理解することが必要だ。全体を知ることで個々をより理解も納得もできる。そのために書物で広く先人に学ぶこともまた重要である。

 例えばハチ。体が黄褐色で細長く、腰がくびれ足が長い、おしりの針で刺すハチ、アシナガバチ類を思い浮かべる人が多いのではないか。もしくはミツバチ。ハチミツの生産者として知らない人はない。ミツバチも腰がくびれ針で刺す。ハチはこういうイメージが定着しているように思う。しかし、ハチの仲間には腰のくびれも、刺す針も無いものもいる。ハバチ類やキバチ類がそうだ。これらは、幼虫が木の葉を食べるもの(ハバチ)、木の幹の中を食べるもの(キバチ)の仲間で、成虫は木の葉や幹に卵を産み付けるだけで幼虫はほったらかしである。このようなハバチからミツバチがどうやって現れてきたのか。非常に面白い、想像力を刺激する問いである。書籍から得た知識をにまとめるとこうなる。

 ハバチ類・キバチ類から、昆虫を幼虫のえさにする寄生バチ(ヒメバチ類やコバチ類)が現れた。生きた昆虫に卵を産み付けようというのだから器用な動きをする腹部が必要になる。腰のくびれたハチの登場だ。こんどは、産卵管を麻酔用の針に変え昆虫に麻酔をかけてえさとするハチが現れる。幼虫の安全のため巣を作り、えさを調達してくる狩人バチ(ジガバチ類やドロバチ類)も出てくる。えさを狩ってから巣を作るものから、巣を作ってから狩りをするものが現れ、幼虫に餌を一度に与えるタイプが現れる。アシナガバチ類はこのタイプだ。狩人バチの一部がえさを花粉と花蜜に変えハナバチ類(ミツバチの仲間)の誕生となった。体の一部の形にも生活の変化の歴史が隠されている。(根来尚 2000年6月21日掲載)




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