天体調査を高精度に
観測装置の開発 (第69回)



  
   
   望遠鏡に取り付けた新型分光器
   
 私は観測装置屋だ。といっても装置を売っているわけではない。天文学の研究にはいろいろなスタイルがあり、望遠鏡やカメラなどを開発している人を観測装置屋と呼ぶのである。

 私が初めて開発に携わった器械は今から四年前、大学の研究室で開発していた装置である。天体からの光をにじに分け、その様子から天体の状態を調べる分光器だ。組み立ては大学で行い、それを岡山県にある望遠鏡に取り付けて天体のデータを取るのである。この器械はそれまでのものより多くのデータがより短時間でとれ、精度が高いのが売りである。とはいえ当時装置開発の経験が浅く、出発日の朝までかかって半ば強引に動くようにした状態で、初観測の日を迎えた。

 岡山の天文台に着いた次の日の朝から、装置の取り付けを始めた。望遠鏡を見学に来た一般の人がガラス越しにこちらを見ており、パンダのような気分になりながら作業していく。段取りはあらかじめ考えてあったが、なかなかその通りに進まない。部品が合わず穴を開け直したり、はんだごてで電気配線を作ったりした。特に分光器に装着されたカメラの不調には泣かされた。実験室ではちゃんと動いていたのに妙なノイズが出る。構造上、その場で修理するわけにいかず、条件を変えながら動かしてノイズが消えるのを待った。

 夜中過ぎになって取り付けとチェックが終わり、ドームを開け、望遠鏡を星に向けた。画面に映し出された映像を見て「やったー、星の絵が写った!」。しかし喜ぶのもつかの間、画面をよく見た一人が「この光は何?」と言う。実験室では写っていなかったものが写っている。後で分かったが、天文台側の装置に不要な光源があり、それがじゃましたのである。

 この装置の開発では細かな設計などに問題があることが分かった。その知識と経験はその後開発された2号機に反映されている。まだ観測段階にないが、今後素晴らしい成果を出してくれるだろう。(林忠史 2000年7月14日掲載)




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