和歌山からスダジイ入手
初代の自然史展示 (第74回)



  
   
   展示準備のため朝日町で行われた行われたスダジイの調査
   
 通常博物館のオープンには少なくとも五年から十年の準備期間が必要である。その間に構想を練り、対象の調査をし、資料を集めるのである。しかし、科学文化センターの場合、わずか二年でしかもまったく調査もなく、資料もない状態からのスタートであり、きつい条件であった。しかし、市当局の理解で開館後に学芸員となるべく専門職員を準備事務局から採用していただいた。科学文化センターのオープンはモノの不足をヒトで補ったといえる。

 展示準備、特に自然史展示には多くの資料が必要であるが、議論の末、自然史展示室では照葉樹林が富山平野を覆っていた縄文時代の最も野生を残した状態のジオラマ、すなわち自然を一部切り取ってきたような形で再現することになった。そのため県内で残された照葉樹林を調査し、中心になるスダジイやアカガシの樹木の入手を急いだ。

 幸い当時、事務局の企画のかなめは初代館長を務めた長井真隆氏であった。優れた植物生態学者であり、県内各地を歩き回り、人脈も広い長井氏の努力で現地の調査が進み、また、不可能かと危ぐされたスダジイの大木も、和歌山県の大塔山付近に伐採可能の木があるとの情報を得た

 そして、いよいよ植物専門の長井氏と私が行くことになった。営林署へ行き、山へ入った。大変な曲がりくねった山道である。車酔いもひどかった。

 一日かけて主役になる太いスダジイとわき役となる細い樹木を選定した。トラックの入る場所まで架線を張って麻袋で保護し大切におろした。樹皮をいためてはいけないからだ。

 乾燥、くりぬき、消毒し、模型の鳥や虫を止まらせ、つる草をはわせた。だれが見ても本物と見違えるほどで、専門業者も大した腕だ。こちらも注文をきちんとつける。詳細な観察無しではできない作業だった。(布村昇 2000年7月27日掲載)




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