深海魚の胃袋から収集
貝の寄贈品@ (第75回)



  
   
   高柳氏のコレクションは収集が難しい富山湾深海のものが多い
   
 富山市科学文化センターには開館後、コレクションの寄贈が相次いだ。いずれも一生かけて集められたものだ。寄贈するときはそれぞれに決心と思い入れがあり、ドラマもある。

 寄贈者の好意に報いるため、できるだけのことをしなくてはならない。展示会を開き、未鑑定のものはわが国の権威者に見てもらい、収蔵目録を発行することである。この作業はとても時間がかかる。しかし、寄贈者が研究に費やした一生に比べるとささやかなものである。

 魚津市の高柳博氏の貝コレクションは、一万五千点に及ぶ。富山市科学文化センターができる時、「博物館に標本が無いことはたいへん惨めだ」と、科学文化センターの貝の標本の充実に心を砕き、自らの収蔵棚から惜しげもなくその一部を寄贈をしていただいた。そして昭和五十八年暮れ、余りにも早い訃報を受けた。高柳氏の遺言で科学文化センターにコレクションはすべて寄贈された。

 高柳氏の標本の特筆すべき点は富山湾の貝の充実である。深海性の貝でもバイなどはバイかごで採れるが、微小貝はそのようにいかない。多くは数_の小さな貝であり、網の目を抜けてしまう。採泥器で採るには船をチャーターしなくてはならないので試験研究機関でないと困難だ。

 高柳氏は「人間が潜水できないような深海で、微小な貝を採集することはきわめて難しい。しかし、深海魚はこれらの小型貝類を食べるはずだ」と考えた。魚の消化器官の中に消化されない殻が残るのである。高柳氏はゲンゲなどの深海魚を買って胃袋を開き、小型貝類を集めたのだ。家族も協力し、来る日も来る日も深海魚を食べさせられた。しまいに近所にも配ったという。

 高柳氏の扱った貝類は海産種だけではない。広く陸産貝も収集した。富山県産の小型陸貝の研究は特筆すべきものがあり、富山県の陸貝研究の基礎を築くうえで大きく貢献した。(布村昇 2000年7月28日掲載)




 この文章の著作権は北日本新聞社にあります。富山市科学文化センターは使用権を取得し、ここに掲載しております。無断転載を禁止します。