重要な標本、良好に保存
貝の寄贈品A (第76回)



  
   
   菊池氏のコレクションは新種や珍しい貝が多い
   
 平成六年の冬の終わりであった。突然、故菊池勘左エ門先生の貝コレクションの寄贈申し出が科学文化センターにあった。菊池先生といえば、富山湾の貝類やエビなどの研究の草分けであり、関係者でその名を知らない者はいなかった。旧制魚津中学、高岡中学校長などを務めた後、故郷の新潟県・佐渡に渡り、両津市教育長、佐渡博物館館長を歴任した方だ。

 私は菊池先生と佐渡博物館で一度お会いしだけだが、富山から来たということで、佐渡の自然や富山との比較など熱心に説明されたことを覚えている。

 その先生の子息、三郎さんからコレクションの寄贈の申し出があったのである。当初は信じられない気持ちだった。急きょ、当時の石浦邦夫館長と佐渡の三郎氏のもとに出かけた。菊池邸では研究の道具や多くの洋書の専門書、そして棚に標本が整然と置かれたいた。文献や研究の道具もそのままになってた。

 一万点にのぼる先生の標本は、学問上きわめて重要なものが、良い状態で残っていた。特に海底の小型のツノガイや二枚貝が欠けてない状況できちんと保管されていた。これは採集の時から海底の泥ごと採取し、注意深くえり出されたものである。先生の苦労と喜びが一つ一つの貝に凝縮されているようであった。

 菊池先生は富山の海の貝も陸の貝も、精力的に調査し、多くの標本を集めた。十三種の貝を新たに発見され、うちトヤマツノガイなど四種は京都大学の黒田徳米博士とともに命名したものである。

 菊池コレクションは多くの貝類学者から目録の発行を望まれていた。すべての標本データを記載し、平成十年度に完成し、菊池勘左エ門先生の標本を調査しに水産庁や国立科学博物館の研究者が科学文化センターを訪れるなど、コレクションは日本海の貝の研究に役立っている。(布村昇 2000年7月29日掲載)




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