陸産類も一括保管へ
貝の寄贈品C (第78回)



  
   
   橘氏のコレクションは一家挙げて収集された
   
 山本虎夫氏から寄贈された貝の整理は、和歌山県白浜町の山本宅で徹夜に近い状態で進められた。その時、神戸在住のの橘央氏から電話がかかってきた。

 橘氏は山本氏の旧制中学時代の恩師であり、山本少年の影響で貝の収集を始めたのである。電話は橘氏が自分の海産貝類標本の引き取り先を山本氏と相談するものであった。山本氏と一緒にコレクションの整理をしていた私に、電話が回り、富山市科学文化センターへの寄贈が決まったのである。この時、寄贈されたのは海の貝約九千六百点で、陸の貝は橘氏が引き継ぎ、研究・収集を続けることになった。

 それから約二十年、今度は橘氏が九十六歳になったのを機に、陸貝の収集をやめ、そのコレクション三千点を科学文化センターに寄贈することになった。当初、地元兵庫県の博物館への寄贈を検討したが、結局、海産の貝を収蔵している科学文化センターで一括して保管する方がいいとということになった。

 海陸合わせて一万二千点を超す標本は、橘氏の徹底して物事をやり遂げる性格通り、丹念にデ−タが記録され、質はきわめて高い。近畿地方のほか神奈川、静岡、岐阜、愛知、鳥取、徳島県へたびたび採集旅行をされ、鹿児島や奄美、沖縄でも採集をなさったようだ。日付けからみて一回の採集品の多さにも驚かされる。

 特筆すべきは家族ぐるみで協力していることだ。橘氏の貝はできあいの貝ケースに入っているのではない。一つ一つ貝の大きさ、形状に合わせてボール紙を切り、上面はガラスをはめ込んだ手作りなのである。長女の葉子さんらが作ったものだ。陸貝などはヨ−ロッパやスリランカなどの種類までを収集しているが、スペイン在住の息子の与四郎氏の採集によるものであり、沖縄のものは同じく息子の康三氏が採集されたものである。心が一つに通い合い、家族みんなで父親の収集、研究を盛り上げているのである。(布村昇 2000年8月1日掲載)




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