河川環境の変遷示す
淡水魚のコレクション (第83回)



  
   
   トゲウオ類の標本と淡水魚が収蔵してある棚
   
 科学文化センターには学校の理科室にあるようなアルコールやホルマリンに浸けられた魚やカエルなどの標本がある。淡水魚では、富山大学教育学部の田中晋教授が一九七〇年代初めごろから県内の代表的な河川で、学生と精力的に魚類調査をした時に採集した七千点ほどの標本がある。見た目はよくないが、川の名前や日付などのデータがはっきり記入してある。

 最近の富山平野の河川や農業用水は改修工事でコンクリートに囲まれ、水生生物がすみにくくなっている。メダカが環境庁の絶滅危ぐ種になるくらいで、フナやドジョウ、ナマズのように普通にみられた魚がどんどん減ってきた。

 コレクションには、平野部で少なくなったトミヨ(トゲウオの仲間)、ヤリタナゴ(タナゴの仲間)、スナヤツメ(ヤツメウナギの仲間)などが含まれる。これらは、フナやメダカがたくさんいたころの富山の河川に、どんな魚がいたかを教えてくれる。

 トゲウオの仲間には富山県ばかりか北海道、東北地方から収集されたものや、現在では少なくなった淡水で一生をおくるイトヨも含まれ、トゲウオ研究者には貴重なコレクションとなっている。

 俗に「ゴリ」と呼ばれ、つくだ煮にもなっているハゼ科のヨシノボリの標本も多い。この仲間は種類が多く、種類や地域によって模様など体の特徴が違う。標本が残っているおかげで富山の川には六種類のヨシノボリがすみ、うちカワヨシノボリは富山県が日本海側の分布の東限であることなどが分かってきた。

 最近は建設省などで河川の水辺の国勢調査という生物相調査が全国的に行われている。また、東京湾の古いハゼの標本から環境ホルモンのダイオキシンが高濃度で検出されており、川の生き物が注目を集めている。河川の環境や淡水魚の顔ぶれがどう変わってかを探る上で古い標本がいろいろと役立つ時代になってきた。(南部久男 2000年8月7日掲載)




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