実物標本は情報の宝庫
後世へ残す (第94回)



  
   
   体長50aにも達するダイオウグソクムシ
   
 展示を行うとき、1つのものをどのように扱うか、じっくりと議論する。それが生物の場合、貝殻、はく製などであれば色彩を残すが、魚や水中の生物などは腐らないようホルマリンなどにつけ化学的な変化を抑える。これを固定というが、時間がたつと退色が進む。どう見ても美しいものではない。だから展示では敬遠されがちだ。

 しかし、時には実物のホルマリンづけなどの標本を展示する。退色しても、実物の迫力は模型には変えがたいからだ。たとえば、私はダンゴムシの研究をしているが、この仲間で海産のものに体長が50aにも達するダイオウグソクムシという種類がいて、科学文化センターにはそのアルコール漬けがある。さすがにこれは模型や映像では迫力が出ない。

 時々、この標本を展示に出すが、たいていの人が「わーでかい」「気味悪い」などと声を上げる。小学生を対象にしたダンゴムシの解剖教室を開くが、体長一aくらいのダンゴムシを苦労して解剖したり観察した後、この標本を見せると「こんなに大きいのがいるのか」「これだと良く分かる」といっそう関心が高まる。

 実物標本には足の毛の生え方一つ取ってもこの生物が進化してきた跡、環境に適応してきた跡などたくさんの情報が含まれている。

 電子顕微鏡で見ると、もっと細かい構造が見られ、さらに多くの情報がここに見られる。さらに小さなDNAなども今後の重要な情報になる。研究の手法が広がれば、情報は無限だ。

 たくさんの標本を収集するのはもちろん展示するためであるが、無尽蔵の情報を後世に伝え、より高度な研究により、さらに多くの確実な情報を引き出すためでもある。

 今の科学・技術では取り出せないものもあるが、西暦二〇〇〇年という時代はもう来ない。収集活動は休めない。(布村昇 2000年8月26日掲載)




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