標本管理の使命感に共感
米スミソニアン滞在 (第96回)



  
   
   スミソニアン自然史博物館で会ったラッセル氏
   
 ラスティー・ラッセル氏は、スミソニアン・米国自然史博物館滞在中に、最も強く影響を与えてくれた人物である。平成九年度末、私は文部省生涯学習局からの派遣で、アメリカ・ワシントンDCにあるこの博物館に百日間滞在し、研修した。ラッセル氏は、植物標本庫の管理部長であった。

 七十人近いスタッフが働いている標本庫での彼の仕事は、標本庫管理ポリシーを啓もうし、資料の保存法を考え、植物写真の画像データベースを自ら構築し、私のようなビジターにも応対することである。人との良い関係を作るのがとても上手な人で、標本庫で最も重要な「標本の管理者」として、何が必要とされているかを敏感に感じ取り、予算獲得に知恵を絞る。この道二十二年のベテランである。

 標本庫で世界の植物を片っ端から見て、その多様さに驚嘆する日々を過ごすうち、地球というものが絶対的に限られた存在であるという実感がわいてきた。彼の仕事もまさにこの視点で行われている。一つしかない地球の自然の歴史を世界の研究者に研究してもらうため、施設と資料を守り、公開することに使命感を持っている。彼の高い視点に触れ、共感できたことが、この研修での最大の収穫であった。

 科学文化センターのような地方の博物館は、郷土の自然の様子をつぶさに調べ、市民の知識のよりどころとなることに大きな活動の意義がある。市民から寄せられた資料や疑問の扱いを、県内や国内の視野にとどめて判断せず、時には地球規模の考え方へと橋渡しをしてあげることも必要だ。

 昨年夏、ラッセル氏は再訪した私を快く迎えてくれた。スタッフも皆、私を覚えていてくれた。スミソニアンは、訪れるたびに私の世界観を広げてくれる場所だ。スミソニアンでの経験は、今も郷土富山で働く私の強力なエネルギー源となっている。(太田道人 2000年8月29日掲載)




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