学芸員を成長させるもの
市民からの質問 (第97回)



  
   
   子供たちの質問に答える学芸員
   
 平成十一年度、科学文化センターに寄せられた質問数は千三百十件。生き物の名前や飼育法、見つけたものが珍しいものかどうか、今、空に見えている不可解なものは何だろうか−など、自然や科学に関するありとあらゆることに答えるのがわれわれ学芸員の仕事だ。特に夏休み期間には、一日の大半が質問対応で終わるという日さえある。

 大変ではあるが、市民とのふれあいの成果を実感できることもある。自分でかなり努力してまとめてきた一中学生の自由研究に、わずかのコメントをしたところ、彼女はさらに洗練された研究にまとめ上げ、ついには内閣総理大臣賞まで取ってしまったのだ。後日、「おかげさまで」とわざわざあいさつに来てくれた。数多く対応した質問に対応していたため、私は本人を全く記憶しておらず失礼したが、本人が科学文化センターで聞いたことをきっかけに研究を深めたことをずっと覚えていた。再度足を運んでくれたことに喜びを感じるとともに、自分に与えられている責任の重さも再確認したのであった。

 就職しばかりのころは、今日はどんな質問の電話がくるかと、どきどきしたものだ。知ったかぶりして答えると、当時同じブロックに座っていた現在の布村昇館長が、回答後にさりげなく参考書の該当ページを差し出してくださったこともあった。

 毎日のようにくる質問を数多くこなすうちに、自分も勉強し市民の求めているものが次第に見えてきた。質問する人の話をある程度聞くと、答えの落としどころが読めるようにさえなってくる。学芸員は、市民からの質問に鍛えられ成長するといっても過言ではない。

 科学文化センターの仕事の中で、市民からの質問への対応はいつも最優先だ。最近では、遠くの県からも手紙やEメールでの質問がある。「科学に関する疑問は、科学文化センターに聞け」と自信を持って言えるよう、これからも努力していきたい。(太田道人 2000年8月30日掲載)




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