脊椎動物の標本
脊椎動物の標本
博物館の大きな使命に博物館資料・標本を収集し、保存するという機能があります。脊椎動物の標本には、対象の種類や保存目的によって様々な標本の種類があります。ここでは代表的な標本について、いくつか紹介します。
液浸標本
主に魚類や両生類、爬虫類といった、乾燥すると形状が変わってしまう動物の保存や各動物の内臓など湿潤環境での保存をする際に用います。主に10%ホルマリン溶液で固定する方法と70%エタノール溶液で固定する方法があります。ホルマリンで固定すると形が固定されるため、標本を作る際にはヒレを広げた状態で固定するなどの作業が必要です。形態学的な比較をする際には形をそのまま残せるため有用です。ただし、DNAがホルマリンによって破壊されてしまうため、DNAサンプルをとりたい場合は事前に採取するなどの対応が必要です。
ホシフグ(液浸標本)
骨格標本
骨格標本は脊椎動物の体内を指示する骨格のみを残して標本にしたものです。全身の骨を残すものは全身骨格標本、中でも情報量の多い頭骨のみを残すものは頭骨標本、手足や鳥類の竜骨部分など部分的な骨格を残す場合は部分骨格標本といいます。作成方法はいくつかありますが、どれも筋肉や結合し組織と行った部分を除去し、骨格にしみこんだ脂を抜いて作成します。自然のなすがままに腐乱させて骨のみを取り出す方法、鍋などで煮込んで骨を取り出す方法、ミルワームやカツオブシムシ等に肉や結合組織を食べさせて骨を取り出す方法などがあります。
哺乳類の頭骨標本
フラットスキン標本
主にネズミ類やモグラ類で用いられる方法で、毛皮を台紙に平らに貼り付けて保存するものです。数多くの標本を少スペースで保存することが可能で、標本加工の時間も短縮できます。
フラットスキン標本
仮剥製標本と本剥製標本
仮剥製標本は主に鳥類や哺乳類で用いられる方法で、一目でその動物の特徴がわかるように、また比較検討がしやすいように作られた剥製です。「仮」とついていても「仮で作った」という意味ではなく、あくまで展示用の剥製との比較でつけられた名前です。またスペースも節約できるので数を保存するのにも適しています。後述の本剥製と比較して劣るというものではなく、本剥製も仮剥製も大事な標本であることに価値の差はありません。
本剥製標本は主に爬虫類、鳥類、哺乳類で用いられる方法で、その動物が生きていたときの姿をもして作られる標本です。主に博物館での展示用や個人で飾るように作られる標本で、剥製というと基本的には本剥製を指します。制作者にはその動物の姿形を復元する力量が求められるため、専門の業者さんが制作する場合も多くあります。
アマミノクロウサギ(仮剥製と本剥製)
この標本は、はるばる奄美大島から寄贈していただいた検体を学芸員の手で標本にしたものです。
標本からわかること
さて、具体的に標本からわかることは何でしょう。標本はその生物が「そこにいた!」という最も確実な証拠です。そのためにはその標本が「いつ」、「だれが」、「どこで」採集したものか、拾われたものかといった情報が不可欠です。その情報を蓄積することで、その地域にどんな動物がいたのか、その動物がどんな個体だったのかといった情報がわかります。当館のコレクションの中には、県内で標本でだけ記録された鳥というものもあります。だれも富山県内で生きた姿を確認できていないのですが、富山県内で死んだ状態で拾得され標本として保存されていたことで、富山県内にも生息していたことがわかった鳥です。このような記録の蓄積も大事な博物館の役割なのです。
富山県内で標本記録のみある鳥類(仮剥製)
関連する文献
- 展示紹介 ツチクジラ
とやまサイエンストピックス No.391 (2010年9月)
この記事を書いたひと
清水海渡
担当:脊椎動物
小さいころから動物が好きで小学生の頃には毎週末バードウォッチングをしていました。高校生の頃に動物の好きな先生に出会い、野山で小さな哺乳類の調査をしたのがきっかけで虜になってしまいました。特にコウモリ・ネズミ・モグラといった小さな哺乳類が好きです。LINK: 学芸員の部屋